SCP-038-DIC
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SCP-038-DIC 【不完全な廃ビル】 危険度 オレンジ ブルー
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特別収容プロトコル
以下のプロトコルは改訂前のものです。
SCP-038-DICの収容時には侵入者の無いよう24時間体制で監視を行い、実験またはDクラス職員を用いた内部探索を決して行わないでください。
SCP-038-DICに何らかの変化があった場合は崩壊が始まる前にSCP-007-DICを用いて修復を行ってください。
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SCP-038-DICの無効化に伴うプロトコル改訂
SCP-038-DICは完全に崩壊した為、職員一同は期限である7月5日までに解体を行ってください。解体が完了した場合職務を終えてください。
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説明
SCP-038-DICは、202◼️年まで兵庫県◼️◼️市に存在していた多目的ビルの一部です。
元々は197◼️年に建設された【データ削除済み】であり、1995年に発生した関東大震災により全体の9割が倒壊した後に異常性が活性化されたと予測されています。
発見された当時、地元の中学生数名が肝試しという体で内部に侵入し、数ヶ月後に全員自殺するという事件が発生しました。その情報を入手した財団職員が調査を行った所、内部に異常性が確認されそのまま収容されました。
SCP-038-DICの内部には開業時から置かれているガチャガチャが手入れされた状態で置かれており、奥には扉が錆び切り電力供給が停止されたエレベーターが一台置かれています。SCP-038-DICの異常性はそのエレベーターが引き金となって発生します。被験者がエレベーターに搭乗すると、エレベーターは不明な動力を用いて一時的に最上階へと動き始め、その後、異常性によって出現したと見られる異空間へと搭乗者を移動させます。財団の内部探索により異空間は全てで11種類存在する事が確認されています。
SCP-038-DICによって出現した異空間は以下の通りです。
2階 ボイド 暗闇が無限に続いており、一度侵入すると被験者は出られないとされる。
3階 多目的トイレ 広さは概ね42㎡程の一般的な多目的トイレです。被験者が侵入すると扉は閉鎖され、その数秒後に便器の水が溢れ出し、被験者は水死します。
4階 アミューズメントパーク 旧式の機種が揃ったゲームセンターがあります。21時以後は電気が消え、SCP-009-DICが範囲を問わず発生します。
5階 裏現世 私達の住む地球に似た別の世界にワープします。世界線は無限にあるため、一度迷うと二度と戻ることはできません。
6階 SCP-3008 文字通りSCP-3008へと繋がります。
7階 本屋 古本屋が出現します。17時になると何処かに設置された鐘が鳴り、内部に被験者がいる場合内部の人間に酷似した生命体が被験者を殺害します。また、被験者が一度立ち入るとその影響は現世でも現れます。
8階 立ち入り禁止 レンガの壁に「立ち入り禁止」と書かれた紙が貼られています。封鎖されているため、外に出る事はできません。
9階 廊下 ホテルのような無限に続く廊下と左右均等に配置された扉があります。扉の先はランダムな別の扉と繋がっている事が確認されています。
10階 ボイド 2階と同様。
11階 エレベーター 搭乗中のエレベーターが出現します。乗ると一連の流れをもう一度繰り返します。
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補遺
199◼️年9月18日、財団職員がSCP-038-DIC内部の調査を行った際、7階の古本屋の一角で現実世界に存在する大手メーカーの学習ノートと酷似する物が発見されました。
ノートには現段階では解読不能とされる程崩壊した文字が書き連ねていました。一部の解読可能範囲から見て、該当のノートに記載されている内容はSCP-038-DICに侵入し、その後帰還した者の日誌であると確認できました。
以下はその内容を一部抜粋した物です。
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僕は[解読不能]を[解読不能]られなかった。何故[解読不能]いるのか。
[解読不能]がして、[解読不能]でも逃げようとした。
(一部省略)
[解読不能]を出た時、今までに感じた事のない[解読不能]を感じた。
[解読不能]を[解読不能]していた僕らは、すぐ家に帰った。
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事件 202◼️年 6月3日 SCP-038-DIC無力化事件
以下の記録は佐山博士(隔離中)によって書かれた内部探索記録です。
今日、私はSCP-038-DICの内部に無駄で立ち入ってしまいました。
自分では制御できない何かを感じ、このチャンスを逃すわけにはいかないと言わんばかりに周りからの警告を無視して内部に侵入しました。
報告書はすでに読んでいます。何が起こるかもわかっていました。しかし、私が体験したのは報告書にも書かれず、誰にも知られなかった事でした。
扉の先に見たのは、12階の景色でした。
そこは階層と言うより屋上のような感じで、面積に合わないような広い屋上が広がっていました。
エレベーターから出た時、振り返った先には何も無い状態で、視線を戻すと、そこには赤い風船を持った女の子がいました。
不気味ながら、どこか懐かしさを感じる背中でした。
私は思わずその子に話しかけました。
「こんな所で何してるんだい?」
女の子は振り向きもせず淡々と話し始めました。
「私は元々、あの日生きていたはずだった。でも、瓦礫に埋もれた私を助ける人はいなかった。そのせいで、私は人を傷つけるようになった。」
その言葉を聞いた時、このビルがどうしてSCPとして動いているかが分かった気がしました。
1995年、震災によって建物は崩れ、辺りからは火が上り、その環境の中、彼女は誰にも気づいてもらう事なく命を絶ち、その時の嫌な記憶がこのビルを動かす新たな動力となっていたようです。
「周りに気づいてもらえないから、気づいてもらいたかった。助かるだとか助からないだとかじゃなくて、ただ周りが残された"私"という一つの命を見つける事ができなかった。」
私はその事に関わっていない。それでも私の口から不意に「ごめんね」という言葉が出てきました。
彼女は私の言葉に気付いたのか、半泣き状態になっていて、私もそれを見て、涙が出てきました。
気付いてやれなかった、他人事のように受け止めていた。でも実際には、本来あるべき命が誰にも見つからずに消えて行った事が、その出来事の裏に隠されていた。
私は彼女にゆっくり近づいて、そっと呟きました。
「ごめんな、気付いてやれなくて。」
彼女は、顔を見ずともわかるようにそっと微笑んでいました。
「うん、もう大丈夫だよ。」
その後、最後まで顔を見せる事無く、彼女は姿を消しました。ビルの上の曇り空は、まるで嘘かのように青く広い空を見せました。私はこれでよかったのでしょうか。
しかし、結果が見えたからには、その事実を受け入れる他ありませんでした。
私はこれ以上やる事がなかったため、そのまま元いた世界へと戻りました。
以上の事件により、SCP-038-DICは完全に無効化され、危険度をオレンジからブルーへと変更しました。
現在、SCP-038-DICは財団によって解体されています。
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財団よ、どうか私を見逃してくれないか。
私は決してやるべき事をしたとは言えないが、記載のされていないあの実験以来死者が出ないままSCP-038-DICは無力となった。
あぁ...彼女に何て言うべきなんだろうか。