闇 のバックアップ(No.1)
8月、夏本番の時期になってもなお宿題が終わらない人もいれば、暇を持て余す人もいる。
僕はどちらかと言えば、暇を持て余している方だ。
どうせ予定もないのに何を楽しめばいいか分からなかった。中学に入って環境が変わってから、今後のことだとかなんだとかで勉強熱心になり、周りからは「勉強バカ」と呼ばれる程だった。
唯一友達と呼べるのは、未だにガキ大将イキりしてるグループくらいだった。
中学生になっても中身はまるで小学生みたいな集団だった。仲間はずれをキッカケにいつのまにかついて行くようになって、僕もそんなに強くはないからガキ大将について行った。
一学期はそれぐらいしか思い出がない。僕が通う学校では、体育祭を5月あたりに行なっていたが、運動に自信が無さすぎて結局どの種目もビリだった。
だからそんな楽しいことも滅多になかったんだ。
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ある日、ガキ大将含む集団が「おーい!どうせやる事ないなら俺らでなんかしようぜー!」と誘ってきた。漫画じゃないんだから、わざわざ二階の窓に向けて叫ばなくてもいいはず。でも、それ程誘いたかったんだろうか。
夏といえば、スイカに花火、浴衣姿の彼女と夏祭りとか、そんなよくあるタイプの夏が頭に浮かぶ。
でも彼らは「肝試し」を提案した。
僕は若干バカバカしいと思っていたけど、仕方なくついていく事にした。
90年代に客足が少なく結果的に廃ビルとなった、買い物中心のビル。
入口には、いつの物か分からないけど無駄に綺麗なガチャガチャがあった。
僕らはこの中に足を踏み入れようと、立ち入り禁止の看板を無視して先へと進んだ。
角を曲がった先には、未だに動いているエレベーターがあった。階段は封鎖されているため、エレベーターで上に上がるか、諦めて帰るしかなかった。
でもやっぱりそこで戻らないのがガキ大将。案の定僕らはエレベーターに乗る事になった。
外観は古いくせに、中は意外にも広く綺麗だった。
一階一階上がって行き、最上階に着いた時。目に映ったのはとある風景だった。
「なんだ、何も無いじゃんか。」
ここは廃ビル、どの階に行ったって散らかってるだけだった。何も無いのがつまらなかったのか、戻ろうとして一階のボタンを押した時、エレベーターは急に上へ上がって行った。
僕らが困惑している間、エレベーターは止まる事を知らないかのように上がり続けて行った。
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到着音が鳴り響く。
30秒程してエレベーターが止まった。
扉の先には、本屋のような、図書館のような空間が広がっていた。
廃墟のはずなのに、あたりには人がちらほらいる。辺りは少し薄気味悪い感じだった。
僕らは中を探索してみる事にした。ごく普通のありふれた本屋のようだった。所々、見覚えのある風景があった。棚に並んだ本は、古い物から新しい物まで、漫画に小説に雑誌まで。様々な本が並んでいた。
僕は記念に一冊、前々から読もうと思っていた小説を買った。暑さで喉が渇いた時のための所持金を使って。レジに来た時、店員の顔をふと見てみると、馴染みのある顔があった。
僕のクラスによく来る、美術の先生だった。
先生は絵を描く事がかなり得意で、時には絵本を書いていた。でも、夏休み直前に事故で亡くなった。
僕は顔を見た時に、少し話しかけようと思ったが、なんとなくやめておいた。
会計を済ませ、ガキ大将の所に行ってみたら、ガキ大将が立ち読みをしていた。本に興味なんかないはずなのに、何を読んでいるのかと気になって、本のタイトルを見てみた。僕はそれを見て鳥肌が立った。
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『お前を殺す方法』
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僕は目に映る事実を受け入れられなかった。何故こんな本を読んでいるのか。
不気味な感じがして、一部のメンバーとだけでも逃げようとした。
ゴーン。
時計の鐘が鳴り響く店内、僕らはエレベーターに乗り込んだが、後からハッとなって後を追ってきたガキ大将は、そのまま乗り遅れてしまった。
扉が閉まり、店内から悲鳴が聞こえた。扉の隙間から、ガキ大将の物と思われる血がダラダラと流れてきた。僕は慌ててボタンを押した。
建物を出た時、今までに感じたことのない安心感を感じた。
一部始終を目撃していた僕らは、すぐ家に帰った。
僕は夏休みの間中、ずっと考えていた。なぜ廃墟に本屋があったのか。なぜそこに人がいたのか。なぜガキ大将はあの本を読んでいたのか。考えた事を全て、一冊のノートにまとめた。
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夏休み明け、僕は約1ヶ月半ぶりに学校へ行った。
あの日、ガキ大将グループで廃ビルに行った事を話したが、誰も覚えていなかった。
僕の、僕らの恐怖体験はこれだけでは済むはずがなかった。
授業中、ガキ大将の方を向いてみると、様子が変だった。
目は真っ赤に充血し、体は震えていた。
ガキ大将率いるメンバーの一部も、同じ状態だった。
僕はその事を先生にこっそり話したが、授業中彼らに異変はなかったという。
それを聞いてなぜか頭が痛くなった。
給食を食べ終え、昼休み。急に気分が悪くなり、保健室に行く事にした。
先生も、今日の意味不明な言動のこともあって、結局は保健室行きが確定だった。
保健室に行く途中、僕はあまりの苦痛に倒れ込んでしまった。そのまま保健室に連れて行かれたが、状態が悪化し病院に行く事になった。
意識が朦朧とする中で、ある夢をみた。それは、あの夏の日の夢だった。
本屋の中で色々と物色していると、急に辺りが暗くなり、中にいた人全員がこっちを向いてきた。
先生にクラスメイト、ガキ大将やその他諸々。
その後、一斉に僕を目がけて飛んできた。
そこで目が覚めた。
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僕は病室で寝ていた。周りには先生や医師が見守っていて、親も仕事を飛び出してきたようだ。
ある程度落ち着いてから、ふと窓を見た。
僕が買ってきた小説が置いてあったが、何か変だった。
あの日、ガキ大将が読んでいた本と、全く同じ状態になっていた。
本を広げてみると、そこには大量の手型と、血文字で「おまえのせいだ」と書かれていた。
何かを察して鏡を見てみると
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そこには、自分ではない-何か-が映っていた。
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うわああぁぁぁぁぁぁぁ
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気がつけば、僕は死んでいた。
あの廃墟のせいなのか、鏡に映った自分を見たショックか、分からない。
でも、まだ感覚はあるようだった。
僕は必死に今までの経験をノートに書き記した。
感覚が薄れていく、そんな中でも、必死に書いた。
ここにある文章も、必死で書いている。
僕はこのノートを本屋に持っていくつもりでいる。
今やっとエレベーターに着いた。もうすぐ感覚が全て消える、そう感じた。
このノートが現世に残ってる間に、書き終えないといけない。
どうかこのノートが一人でも多くの人、いや、亡霊に行き渡る事を。
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